残業代請求の理論と実践

弁護士渡辺輝人のブログ。残業代(労働時間規制)にまつわる法律理論のメモ、裁判例のメモ、収集した情報のメモ等に使います。

資料:東京地判平成27年9月8日

東京地判平成27年9月8日(出典はウェストロージャパン)

事件番号 平24(ワ)33296号

事件名 賃金請求事件

文献番号 2015WLJPCA09088023

 

 時効の中断についての裁判例。固定残業代や、除外賃金の論点で有名な小里機材事件は、労働組合の副委員長が団体交渉で労働者全員分の未払い残業代を請求したことをもって個別の労働者との関係での時効中断を認めた判決であり、最高裁でも結論が是認されている。この事件はその趣旨から小里機材事件の最高裁判決を引用している。 

  イ 時効中断の有無

 (ア) 催告の有無

 そもそも,民法153条は,簡易な催告に時効の中断効を認めつつ,その中断効を確定的なものとせず,6か月以内に正式の中断手続をとることにより初めて確定的に中断の効力を認めることにしているから,実際の催告について,方式は問われず,また,債権の内容を詳細に述べて請求する必要はなく,どの債権か分かる程度の指示があれば足り,黙示的な催告でもよいものと解されるところ,前提事実(第2の1(5)ア及びイ)によれば,原告らは,その所属する訴外労組に授権した上で,同労組を通じて,平成24年5月2日付け「要求書並びに団交申し入れ書」及び同月17日付け「回答書」により被告らに対し未払割増賃金の支払を請求する意思を通知し,両通知はそのころ被告らに到達したものと認められ,これは催告に当たるといえる。

 これに対し,原告らは,同月24日付け「未払割増賃金請求書」まで請求が完結しておらず,代理行為に求められる顕名も行われていなかったなどと主張し,この点,たしかに,それまでには組合員である原告らを具体的に特定した上での顕名があったわけではなく,前記「未払割増賃金請求書」まで至って「請求者」,「請求に至る考え方」,「請求期間」,「請求期間に係る未払い割増賃金額の計算方法」が具体的に明示されたという経緯があるが,請求として認められるか否かとは別に,訴外労組加入のパート労働者である原告らの被告らに対する債務履行請求の意思の通知として認められるか否かという観点からみれば,前記「回答書」までで足りるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和63年7月14日第一小法廷判決・労働判例523号6頁参照)。

 そうすると,同年11月22日の本件訴訟提起(前提事実(第2の1(5)エ))は,催告から6か月を超えての提訴(裁判上の請求)になるものと解され,確定的な中断の効力を生じるための法定の要件を満たさないこととなる。