残業代請求の理論と実践

弁護士渡辺輝人のブログ。残業代(労働時間規制)にまつわる法律理論のメモ、裁判例のメモ、収集した情報のメモ等に使います。

判例:札幌高判平成24年2月16日(労判1123号121頁 三和交通事件)

  札幌高判平成24年2月16日(労判1123号121頁 三和交通事件)は、歩合給と割増賃金の関係について述べたもの。地裁判決(札幌地判平成23年7月25日)の下記判示を引用している。

 そもそも、労働基準法37条が、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払を使用者に義務付けた趣旨は、同法の定めた労働時間制を超過する特別な労働に対する労働者への補償を行うとともに、労働時間制の例外をなす時間外・休日労働について割増賃金の経済的負担を使用者に課すことによって、これらの労働を抑制し、もって、労働時間制の原則の維持を図ろうとする趣旨に出たものであるところ、同条は強行法規と解され、これに反する合意を使用者と労働者との間でしても無効とされる上、その不払いは6月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑事罰の対象とされている。

 ところが、前記認定のとおり、被告の賃金規定の定めは、被告において自認するようにその実質においていわゆる完全歩合制であって、その規定上、時間外・深夜手当や歩合割増給を支給するものとはされているものの、結局その増額分は被告の定めた算定方法の過程においてその効果を相殺される結果、被告の支給する賃金は、原告らが時間外及び深夜の労働を行った場合において、そのことによって増額されるものではなく、場合によっては歩合給が減額することすらありうる。そうすると、その実質において法37条の趣旨を潜脱するものとして、その全体を通じて同条に違反するといわざるを得ず、被告の賃金の支給によって、原告らに対して法37条の規定する時間外及び深夜の割増賃金が支払われたとすることは困難なものというべきである。そして、被告の賃金規定の実質はいわゆる完全歩合制を趣旨とするものであり、証拠上窺われる経緯から原告らと被告もそのように理解していたと解されること等にも照らすと、本件においては、営収に54%ないし55%を乗じた支給金額を、法37条1項所定の「通常の労働時間又は労働日の賃金」に当たるものと解するのが相当である。