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残業代請求の理論と実践

弁護士渡辺輝人のブログ。残業代(労働時間規制)にまつわる法律理論のメモ、裁判例のメモ、収集した情報のメモ等に使います。

判例:東京地判平成26年8月20日(ワークスアプリケーションズ事件)

東京地判平成26年8月20日(ワークスアプリケーションズ事件)。

労判 1111号84頁(要旨)

文献番号 2014WLJPCA08208009

  

 労基則19条1項との関係で、月平均所定労働時間数過大、算定基礎賃金過小を指摘して、固定残業代の合意を否定した事例。

 2 争点(2)―営業手当は,月50時間分の時間外手当であり,時間外労働手当に充当されるか。

  (1) 原告に就業規則46条の適用がないとしても,賃金規程のとおり,理論年俸に含まれる営業手当が月50時間分の時間外労働手当であると認められるときは,営業手当を基礎賃金から除外し,時間外労働手当に充当すべきである。そこで,以下,営業手当が月50時間分の時間外労働手当といえるかを検討する。

  (2) 営業手当が50時間分の時間外労働手当の支払といえるには,時間外労働手当に当たる部分とそれ以外の部分が明確に区分されて合意がされていることを前提として,少なくとも,営業手当の額が,労基法所定の計算方法によって計算した50時間分の時間外労働手当の額を下回らないことが必要である。なぜならば,時間外労働手当に当たる部分とそれ以外の部分が明確に区分されていなければ,労基法所定の計算方法による時間外労働手当の額を計算することができないし,計算した結果,労基法所定の計算方法による時間外労働手当の額を下回っているようでは,時間外労働手当によって時間外労働を抑制しようとした労基法の趣旨を没却するのみならず,労基法に定める基準に達しない労働条件を定めたこととなり,無効となるからである。

  (3) 本件では,前記第2の2(3)ウのとおり,賃金規程等に「基本給=理論年俸/14×168/230.5-50,000」との定めがあり,営業手当は「営業手当=理論年俸/14-(基本給+DC支援金)」とされ,DC支援金ないしDC手当は月5万円とされていた。そして,基本給の計算式のうち,「168」とあるのは月平均所定労働時間であり,「230.5」とあるのは,50時間に割増率1.25を乗じた数値を168に加算した値であった(弁論の全趣旨(被告第3準備書面))。

 以上によれば,営業手当は次の計算式により算出されていることとなる。すなわち「営業手当=理論年俸/14-(理論年俸/14×168/230.5-50,000+DC支援金)」。これを整理すると,「営業手当=理論年俸/14×(1-168/230.5)=理論年俸/14×(62.5/230.5)=理論年俸/14×{50×1.25/(50×1.25+168)}」ということになり,営業手当は,理論年俸の14分の1を時間外手当の算定の基礎賃金とし,かつ,月平均所定労働時間を168時間として,50時間分の時間外労働手当を計算した額と認められる。

 しかし,平成24年の被告の月平均所定労働時間は165.33時間であり(第2の2(2)),所定労働時間を168時間として計算すると基礎賃金は下がるから,営業手当は労基法に定める計算方法による時間外労働手当の額を必ず下回る結果となる。また,年度当初に年俸額を決定しその一部を賞与として支払うという年俸制においては,賞与は「臨時に支払われた賃金」(労基則21条4号)でも,「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」(同項5号)でもなく,基礎賃金から控除することはできないと解されるのに,賃金規程は,理論年俸の14分の1を1か月の基礎賃金とし,賞与を控除しているから(第2の2(3)ウ(イ)),このことによっても,営業手当は労基法に定める計算方法による時間外労働手当の額を下回る結果となる。

 そうすると,営業手当は,労基法所定の計算方法によって算出した50時間分の時間外労働手当の額を下回る額となることが明らかであり,賃金規程で営業手当を月50時間分の時間外手当と定めた部分は,労基法に定めた基準を下回る労働条件であるから無効であり(労基法13条),営業手当の支払をもって時間外労働手当の一部支払であると認めることはできない。